ECサイトでの売上も安定し、多くのファンを獲得してきたD2Cブランド。しかし、「オンラインだけでの成長に限界を感じ始めた」「顧客との関係性をさらに深めたい」といった新たな課題に直面している担当者の方も多いのではないでしょうか。
その解決策として今、多くのD2Cブランドが注目しているのが「実店舗展開」です。かつてはオンライン完結を強みとしていたD2Cが、なぜあえてコストをかけてオフラインに進出するのでしょうか。
本記事では、D2Cブランドが実店舗を持つべき本質的な理由から、具体的な成功事例、そして絶対に失敗しないための戦略までを徹底的に解説します。オンラインとオフラインを融合させ、ブランドを次のステージへ引き上げるためのヒントがここにあります。
目次
D2Cブランドがオンラインの枠を超え、実店舗というリアルな場に進出する動きが加速しています。その背景には、単に販売チャネルを増やすという以上の、3つの戦略的な理由が存在します。
D2Cブランドの最大の武器は、顧客との直接的なつながりです。しかし、デジタル上でのコミュニケーションには限界があります。実店舗は、このつながりをより強固で感情的なものへと昇華させるための最高の舞台となります。
五感をフルに活用したブランド体験
Webサイトの画面では伝えきれない、商品の質感、素材の香り、空間のデザイン、流れる音楽。これら五感に訴えかける要素は、顧客の記憶に深く刻まれ、ブランドへの愛着を育みます。例えば、アパレルブランドなら生地の滑らかさを実際に触って感じてもらい、コスメブランドなら専門スタッフによるカウンセリングを受けながら香りを試してもらう。こうした体験は、購入の決め手となるだけでなく、「このブランドの世界観が好き」という強い感情的な結びつきを生み出します。
顧客の不安を解消し、信頼を醸成
ECサイトにおける最大の離脱ポイントの一つが、「商品を直接確認できない不安」です。特に、サイズ感が重要なアパレルや、質感が決め手となる家具、香りが重要なフレグランスなどは、オンラインでの購入にためらいを感じる顧客が少なくありません。実店舗は、この不安を払拭する「ショールーム」としての役割を果たします。実際に商品を試着・試用し、納得した上で購入してもらう、あるいは店舗で確認した商品を後からECサイトで購入してもらう(ウェブルーミング)ことで、顧客満足度は飛躍的に向上し、ブランドへの信頼へと繋がります。
実店舗は、単なる商品を売る場所ではなく、ブランドの哲学やストーリーを伝えるメディアとしての機能ちます。作り手の想いが込められた空間で顧客と直接対話することは、短期的な売上以上に、長期的にブランドを支える「熱狂的なファン」を育成するために不可欠です。
コミュニティ形成の拠点として
店舗を拠点にワークショップやトークイベントを開催することで、顧客同士、あるいは顧客とブランドの中の人が繋がるコミュニティを形成できます。同じ価値観を持つ人々が集い、ブランドへの想いを語り合う場は、顧客のロイヤリティを最大化させます。ファンが新たなファンを呼ぶ好循環が生まれ、ブランドは広告宣伝費に頼らない、オーガニックな成長を遂げることができるのです。
顧客からのリアルなフィードバック
顧客との何気ない会話の中には、商品開発やサービス改善のヒントが隠されています。アンケートやレビューでは得られない、表情や声のトーンといった定性的なフィードバックは、ブランドが顧客に寄り添い、進化し続けるための貴重な財産となります。この「共創」の姿勢こそが、顧客に「自分はこのブランドの一員だ」と感じさせ、強いエンゲージメントを生み出すのです。
実店舗展開の最終的なゴールは、オフラインの売上だけで完結させることではありません。オンラインとオフラインの垣根なく、顧客に最高の体験を提供し、ブランド全体の売上を最大化する「OMO(Online Merges with Offline)」を実現することにあります。
オンラインとオフラインの顧客データ統合
店舗で会員登録を促し、ECサイトの会員情報と統合することで、顧客の行動をオンライン・オフラインの両面から深く理解できます。「店舗で特定の商品を見た後、ECサイトのレビューをチェックし、後日購入した」といった一連の購買行動をデータで可視化することで、一人ひとりの顧客に最適化されたマーケティング施策(例えば、店舗で試着した商品のクーポンを後日アプリで配信するなど)が可能になります。
LTV(顧客生涯価値)の最大化
実店舗でのポジティブな体験は、その後のECサイトでのリピート購入を促進します。逆に、普段ECサイトを利用している顧客が店舗を訪れることで、新たな商品の魅力に気づき、購入単価が上がることも期待できます。このように、オンラインとオフラインを相互に行き来してもらうことで、顧客との接点は多様化・深化し、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上に直結するのです。
D2Cブランドが実店舗を展開する際、大きく分けて「ポップアップストア」と「常設店舗」という2つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、ブランドの目的やフェーズによって最適な選択は異なります。
ポップアップストアとは、数日間から数ヶ月といった短期間だけ、商業施設やイベントスペースに出店する形態のことです。本格的な常設店舗に比べて、リスクを抑えながらオフライン展開の第一歩を踏み出せるのが最大の魅力です。
メリット:
デメリット:
常設店舗は、ブランドの拠点として腰を据えて運営する店舗形態です。初期投資や運営コストは大きくなりますが、その分、ブランドの世界観を深く伝え、顧客と継続的な関係を築くことができます。
メリット:
デメリット:
ここでは、実際に実店舗展開を成功させているD2Cブランドの事例を、その「目的」と共に詳しくご紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、戦略のヒントを見つけてください。
ブランド概要:
FABRIC TOKYOは、「自分らしいビジネスウェア」をコンセプトに、高品質なオーダースーツやシャツをオンラインで提供するD2Cブランドです。
店舗展開の目的と戦略:
オーダースーツ業界における最大の課題は、顧客が自分の正確なサイズを把握していないこと、そして採寸のために店舗へ足を運ぶ手間がかかることでした。FABRIC TOKYOはこの課題を解決するため、「初回は店舗でプロが採寸し、そのデータをECサイトに登録。2回目以降は、いつでもどこでもスマホから自分のサイズに合った商品を注文できる」という画期的なOMOモデルを構築しました。
店舗の役割は、単に商品を販売する場所ではありません。顧客のサイズ不安を取り除く「体験の場」であり、オンラインでの快適な購入体験へと繋げるための「入り口」として機能しています。一度店舗で採寸(顧客データ登録)を済ませれば、その後は引っ越しや転勤をしても、オンラインで手軽にジャストサイズのスーツを注文し続けられるのです。
成果と学べるポイント:
この戦略により、FABRIC TOKYOはオンラインの利便性とオフラインの安心感を両立させ、顧客から絶大な支持を得ました。店舗は採寸データという貴重な資産を獲得する場となり、ECサイトはそのデータを活用してリピート購入を促進する。この見事な連携プレーは、オフラインでの体験が、いかにオンラインでのLTV向上に貢献するかを示す好例です。
ブランド概要:
COHINAは、身長155cm以下の小柄な女性をターゲットにしたアパレルD2Cブランド。「小柄な女性に、本当に似合う服を」という明確なコンセプトで、多くのファンの心を掴んでいます。
店舗展開の目的と戦略:
ECサイトの課題であった「サイズ感の不安」を解消するため、定期的にポップアップストアを開催。顧客が実際に商品を試着できる機会を提供しました。しかし、COHINAの店舗の真価はそれだけではありません。店舗を顧客とスタッフ、あるいは顧客同士が交流できる「コミュニティの拠点」と位置づけたのです。
インスタライブで人気のスタッフが店頭に立ち、顧客一人ひとりにコーディネートを提案。顧客同士も「その着こなし可愛いですね!」と自然に会話が生まれるような、温かい雰囲気作りを徹底しました。これは単なる販売の場ではなく、ブランドの世界観を共有し、共感しあう「祭典」のような空間なのです。
成果と学べるポイント:
ポップアップストアは毎回大盛況となり、店舗での感動的な体験がSNSを通じて拡散され、ブランドの認知度は飛躍的に向上しました。顧客は商品を買いに来るだけでなく、「スタッフの〇〇さんに会いに来た」「コヒナ仲間と話したい」という目的で店舗を訪れます。商品を売るのではなく、体験とコミュニティを売る。この姿勢が、COHINAを単なるアパレルブランドから、熱狂的なファンに支えられるライフスタイルブランドへと押し上げた要因です。
ブランド概要:
BULK HOMMEは、「メンズスキンケアブランド世界シェアNo.1」をビジョンに掲げる、高品質なメンズコスメD2Cブランドです。
店舗展開の目的と戦略:
オンラインを中心に成長してきたBULK HOMMEですが、さらなるブランドの飛躍のためには、オンラインだけではリーチできない新たな顧客層へのアプローチが不可欠でした。そこで、ブランドの世界観を五感で体験できる実店舗(当初はポップアップ、後に常設店)を出店。洗練された店舗デザイン、専門知識を持つスタッフによるカウンセリング、そして実際に製品を試せるテスタースペースを用意し、男性が気兼ねなくスキンケアを試せる環境を整えました。
また、全国のロフトや百貨店といった小売店への卸展開も積極的に行い、オフラインでの顧客接点を最大化。D2Cでありながら、巧みにオフラインチャネルを活用することで、ブランド認知度を一気に高める戦略を取りました。
成果と学べるポイント:
オフライン展開により、これまでメンズスキンケアに馴染みのなかった層や、商品を実際に試してから購入したいと考えていた潜在顧客の獲得に成功。オフラインでのブランド体験がフックとなり、ECサイトでの定期購入へと繋がるという理想的な循環を生み出しました。D2Cの強みである顧客との直接的な関係性と、小売の強みである広範なリーチを組み合わせることで、市場での圧倒的なポジションを確立した事例です。
ブランド概要:
ALL YOURSは、「着たくないのに、毎日着てしまう」というユニークなコンセプトを掲げ、クラウドファンディングなどを活用してファンと共創するものづくりを行うアパレルD2Cブランドです。
店舗展開の目的と戦略:
ALL YOURSの製品は、一見すると普通のTシャツやパーカーに見えます。しかし、その真価は「速乾性が高い」「毛玉ができにくい」「長期間着続けてもへたらない」といった機能性にあります。この魅力を伝えるには、短時間の試着だけでは不十分でした。そこで、東京・池尻大橋に構えた店舗では、製品を2週間無料で貸し出し、日常生活の中でじっくり試せる「お試し制度」を導入しました。
店舗は商品を売る場所ではなく、ブランドの哲学と製品の価値を深く理解してもらうための「実験室」なのです。顧客は製品を実際に着て生活し、その機能性の高さを実感した上で、納得して購入(あるいは返却)することができます。
成果と学べるポイント:
このユニークな取り組みは、製品への絶対的な自信の表れであり、顧客との間に強い信頼関係を築きました。「売りっぱなしにしない」というブランドの誠実な姿勢が顧客の共感を呼び、LTV(顧客生涯価値)が非常に高いファンを育成することに成功しています。目先の売上よりも、長期的な顧客との関係性を重視する。D2Cの思想を店舗体験で見事に体現した、先進的な事例と言えるでしょう。
ブランド概要:
大手食品メーカーである「明治」が、主力商品であるチーズの新たな魅力を発信するために展開したポップアップストアの事例です。
店舗展開の目的と戦略:
「明治北海道十勝純乳脂45」などの商品を使い、これまでにないチーズの楽しみ方を提案する体験型ポップアップストア「明治チーズファクトリー」を期間限定でオープン。「もっとチーズが好きになる」をコンセプトに、オリジナルのチーズ作り体験や、店舗でしか味わえない限定スイーツメニューを提供しました。
店舗の内装やメニューは、SNSでの写真映えを意識して設計されており、来場者が自発的に情報を発信したくなるような仕掛けが随所に施されていました。大手企業がD2C的なアプローチを用いることで、既存のブランドイメージを刷新し、若年層へのアプローチを狙ったのです。
成果と学べるポイント:
このポップアップストアは多くのメディアやインフルエンサーに取り上げられ、SNS上で大きな話題となりました。製品を売るのではなく、「楽しい体験」を提供することに徹した結果、ブランドへの好意度を高め、新たな顧客層の獲得に成功しました。伝統的な大手メーカーであっても、ポップアップストアという手法を用いることで、ブランドの再活性化(リブランディング)が可能であることを示しています。
ブランド概要:
Mr. CHEESECAKEは、元フレンチシェフの田村浩二氏が手がけるチーズケーキブランド。通常は公式オンラインストアでのみ、毎週日曜日と月曜日の午前10時から数量限定で販売されており、「日本一入手困難なチーズケーキ」とも呼ばれています。
店舗展開の目的と戦略:
オンラインでの希少性を強みとするMr. CHEESECAKEは、常設店を持ちません。その代わり、バレンタインやクリスマスといった特別なシーズンに合わせ、話題性の高い商業施設でポップアップストアを展開します。そこでは、通常はオンラインでしか買えない定番商品に加え、「店舗でしか買えない限定フレーバー」やオリジナルのグッズを販売。この「限定性」が、顧客の購買意欲を強く刺激します。
成果と学べるポイント:
オンラインでの「入手困難」というブランドイメージを維持したまま、オフラインでの「今ここでしか手に入らない」という新たな付加価値を創出。ポップアップストアは連日長蛇の列となり、その様子がさらにSNSで拡散されることで、ブランドの価値はスパイラル的に向上していきます。オンラインでの希少性を、オフラインの限定性でさらに増幅させるという、非常に計算された巧みなブランド戦略です。
ブランド概要:
FooTokyoは、「ふぅ」と安らぐ瞬間を届けることをコンセプトに、上質なルームウェアやタオル、バスオイルなどを展開するライフスタイルD2Cブランドです。
店舗展開の目的と戦略:
FooTokyoの製品は、その品質の高さと洗練されたパッケージデザインから、「大切な人への贈り物」としての需要が高いという特徴がありました。このギフト需要をさらに取り込むため、有名百貨店を中心にポップアップストアを展開しています。
百貨店というチャネルは、ギフトを探しに来る目的意識の高い顧客が多く、ブランドのターゲット層とも親和性が高い場所です。店舗では、専門のスタッフが顧客の相談に乗りながら、最適なギフトセットを提案。実際に製品の滑らかな手触りを確かめてもらうことで、品質への信頼を高め、購入へと繋げています。
成果と学べるポイント:
百貨店への出店により、これまでオンラインではリーチできなかった新たな顧客層(特にギフトを探す中高年層など)の開拓に成功しました。また、「百貨店で取り扱われているブランド」というお墨付きは、ブランド全体の信頼性向上にも大きく貢献しています。自社製品がどのようなシーンで求められているか(この場合はギフト)を深く理解し、そのニーズが存在する最適な場所に出店することの重要性を示唆する事例です。
ここまで見てきたように、D2Cブランドにとって実店舗展開は大きな可能性を秘めています。しかし、多額の投資が必要となるため、戦略なくして成功はありえません。ここでは、失敗を避けるために最低限押さえておくべき3つのポイントを解説します。
「なぜ、実店舗を出すのか?」この問いに明確に答えられなければ、プロジェクトは必ず迷走します。店舗に課す役割(KPI)を、出店前に必ず定義しましょう。
これらの目的は一つに絞る必要はありませんが、何に最も重きを置くのか、優先順位を明確にしておくことが、適切な意思決定の鍵となります。
最も避けなければならないのは、ECサイトと実店舗が互いに顧客を奪い合う「カニバリゼーション」です。店舗はECの競合ではなく、ECをさらに成長させるためのパートナーでなければなりません。そのために、OMO戦略の具体的な設計が不可欠です。
これらの施策を通じて、顧客に「チャネルを意識させない、シームレスな購買体験」を提供することがOMOの本質です。
目的と戦略が固まったら、最後にそれを実現するための最適な「器」を選びます。前述の通り、選択肢はポップアップストアと常設店舗に大別されます。
出店場所の選定も極めて重要です。ターゲット顧客は休日にどこで過ごすのか、ブランドイメージと街の雰囲気は合っているか、競合ブランドの出店状況はどうか。これらの要素を徹底的にリサーチし、「自分たちの顧客が、最も自然な形で見つけてくれる場所」はどこなのかを考え抜く必要があります。
ここまで、D2Cブランドの店舗展開における理由、事例、そして成功のポイントを解説してきました。しかし、「理屈はわかったが、自社だけでこの複雑なプロジェクトを推進できるだろうか」「OMO戦略の設計など、専門的な知見を持つ人材が社内にいない」といった不安を感じられた方も多いのではないでしょうか。
D2Cの店舗展開は、オンラインとオフラインの両方に精通した、高度なマーケティング戦略と実行力が求められる領域です。だからこそ、手探りで進めて多額の投資を無駄にしてしまう前に、経験豊富なプロフェッショナルの力を借りることが、成功への最も確実な近道となります。
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