「自分たちの想いが詰まった商品を、直接お客様に届けたい」
近年、そんな想いを実現するビジネスモデルとして「D2C(Direct to Consumer)」が大きな注目を集めています。しかし、その一方で「何から始めればいいのか分からない」「立ち上げたものの、うまくいかない」といった声が多いのも事実です。
D2Cの立ち上げは、単にECサイトを作って商品を並べるだけではありません。ブランドの魂となるコンセプト設計から、熱狂的なファンを生み出す顧客体験の構築まで、そのプロセスは多岐にわたり、専門的な知識と戦略が不可欠です。
この記事では、株式会社StockSunのコンテンツマーケティングチームが、EC/D2C領域で培ってきた知見を基に、D2Cブランド立ち上げの全ステップを網羅的に解説します。成功事例の分析から、失敗を避けるための具体的な秘訣まで、これ一本でD2C立ち上げの全体像が掴める「完全ガイド」です。
目次
D2Cの立ち上げ方を解説する前に、まずは「D2Cとは何か」という基本的な部分を正確に理解しておく必要があります。従来のビジネスモデルとの違いや、メリット・デメリットを把握することが、成功への第一歩です。
D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーが自社で企画・製造した商品を、卸売業者や小売店を介さずに、自社のECサイトなどを通じて消費者へ直接販売するビジネスモデルを指します。
従来の通販・ECモデルとの最も大きな違いは、「流通チャネル」と「顧客との関係性」にあります。
▼ビジネスモデルの比較
D2Cは単なる「メーカー直販」を意味する言葉ではありません。顧客と直接繋がることで得られるデータを活用し、ブランドの世界観やストーリーへの共感を軸に、顧客と長期的な関係を築いていくことこそが、D2Cの本質と言えるでしょう。
D2Cモデルを採用することで、企業は以下のような大きなメリットを享受できます。
D2Cでは、卸売業者や小売店への中間マージンが発生しません。その分、利益率を高めることが可能です。また、自社で販売価格をコントロールできるため、値下げ競争に巻き込まれることなく、ブランド価値に基づいた価格設定ができます。削減したコストを商品開発やマーケティングに再投資し、さらなるブランド価値向上を目指す好循環を生み出すことも可能です。
自社ECサイトを通じて、顧客の年齢・性別といったデモグラフィック情報から、購入履歴、サイト内での行動履歴(どのページをどれくらい見たかなど)まで、詳細なデータを直接収集できます。これらの一次データは、顧客理解を深めるための貴重な資産です。
例えば、「特定の商品Aを購入した顧客は、3ヶ月後に商品Bをリピート購入する傾向がある」といったデータが分かれば、適切なタイミングで商品Bをおすすめするメールを送る、といったパーソナライズされたマーケティング施策が可能になります。SNSやメルマガを通じて直接コミュニケーションを取ることで、顧客の声を商品開発やサービス改善に活かし、顧客ロイヤルティを高めることにも繋がります。
D2Cでは、ブランドの世界観を表現する場(ECサイト、SNS、同梱物など)をすべて自社でコントロールできます。商品の魅力だけでなく、創業者の想いやブランドストーリーを伝えることで、機能的価値だけではない「情緒的価値」を顧客に提供し、強い共感を呼ぶことができます。また、新商品のテスト販売やキャンペーンの実施など、市場の反応を見ながらスピーディーに意思決定し、実行に移せる点も大きな強みです。
多くのメリットがある一方で、D2Cには知っておくべきデメリットも存在します。
D2Cは、その名の通り「Direct」にビジネスを行うため、従来は他社が担っていた業務もすべて自社で行う必要があります。
これらの業務をすべて自社でカバーするには、幅広い専門知識とスキルを持つ人材が必要です。リソースが限られるスタートアップにとっては、大きな負担となる可能性があります。
Amazonや楽天市場のような大手プラットフォームには、すでに多くのユーザーが訪れる「集客力」があります。しかし、自社で立ち上げたECサイトには、当然ながら最初は誰も訪れません。ブランドを知ってもらい、サイトに顧客を呼び込むためには、Web広告やインフルエンサーマーケティングなど、相応の初期投資が必要です。認知度がゼロの状態から顧客を獲得していく難易度は、決して低くありません。
ここからは、D2Cブランドを立ち上げるための具体的な手順を7つのステップに分けて解説します。このロードマップに沿って進めることで、抜け漏れなく、成功確率の高い立ち上げ準備が可能になります。
すべての土台となる、最も重要なステップです。ここでブランドの「軸」を固めなければ、その後の全ての施策がブレてしまいます。
「誰の、どんな課題を、どのように解決するのか」を定義し、ブランドの存在意義を明確にします。以下の要素を言語化していきましょう。
コンセプトを具体的な数値計画に落とし込みます。最低でも以下の項目は策定しましょう。
この段階で専門家の視点を入れることで、計画の解像度を格段に上げることができます。
ブランドコンセプトを具現化した商品を作ります。D2Cにおいて商品は、単なる「モノ」ではなく、ブランドの世界観を伝える最も重要なメディアです。
顧客が商品を認知し、購入するための「お店」となるECサイトを構築します。選択肢は多岐にわたりますが、D2Cでよく利用されるのは以下の3つのタイプです。
最も手軽に始められる方法です。サーバーの準備やシステムの専門知識がなくても、デザインテンプレートを選び、商品情報を登録するだけでECサイトを開設できます。特にShopify(ショッピファイ)は、デザインのカスタマイズ性が高く、豊富な拡張機能(アプリ)で機能を自由に追加できるため、本格的なD2Cブランドの多くが採用しています。
▼主要ASPカート比較
サービス名 | 特徴 | 月額費用(目安) | 向いている事業者 |
---|---|---|---|
Shopify | 世界No.1シェア。デザイン・拡張性が高く、本格的なストア構築が可能。越境ECにも強い。 | $33~ | 本格的に事業を成長させたいスタートアップ~大企業 |
BASE | 初期費用・月額費用が無料で始められる。操作が簡単で初心者向け。 | 0円~ | 個人、スモールビジネス、初めてECを始める方 |
STORES | BASEと同様に手軽に始められる。決済手数料が比較的安い。 | 0円~ | 個人、スモールビジネス |
ECサイトに必要な機能をパッケージ化したソフトウェアを自社サーバーにインストールして構築する方法です。ASPカートよりもカスタマイズの自由度が高いですが、構築・運用には専門知識とコストがかかります。
ゼロから完全にオリジナルのECサイトを開発する方法です。最も自由度が高いですが、開発費用は数千万円以上になることもあり、大規模事業者向けの選択肢です。
多くのD2Cブランドは、まずShopifyなどのASPカートでスモールスタートし、事業の成長に合わせて機能を追加したり、より上位のプランに移行したりする方法を選択しています。
ECサイトが完成したら、次はその存在を知ってもらい、顧客を呼び込む必要があります。D2Cの集客方法は多岐にわたりますが、代表的なものをいくつか紹介します。
これらの施策を単体で行うのではなく、ブランドのフェーズやターゲットに応じて組み合わせて実行することが重要です。どの手法が最適かを見極めるには、マーケティングの専門知識が求められます。
D2Cにおいて、顧客体験(CX = Customer Experience)はブランドの生命線です。商品が顧客の元に届き、利用するまでの一連の体験すべてがブランド価値を左右します。
ECサイトでのストレスのない購入プロセスはもちろんのこと、決済方法の充実も重要です。クレジットカード決済だけでなく、コンビニ後払いやキャリア決済、ID決済(Amazon Payなど)といった多様な選択肢を用意することで、カゴ落ち(商品をカートに入れたまま離脱すること)を防ぎます。
フルフィルメントとは、商品の受注から決済、在庫管理、ピッキング、梱包、発送、そして返品・交換対応までの一連の業務プロセスを指します。この部分の品質が低いと、顧客満足度は大きく低下します。
D2Cの成功は、いかにリピート顧客(ファン)を増やせるかにかかっています。新規顧客の獲得には、リピート顧客の維持に比べて5倍のコストがかかるとも言われています。そこで重要になるのがCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)です。
D2Cは「立ち上げて終わり」ではありません。むしろ、立ち上げてからが本当のスタートです。Step1で立てた事業計画のKPIを日々モニタリングし、データに基づいて改善を繰り返していく「グロース」のフェーズに入ります。
分析ツールを活用し、以下のような主要KPIを定点観測しましょう。
これらのデータを分析し、「なぜCVRが低いのか?」「どの広告チャネルのCPAが良いのか?」といった課題を発見し、サイト改修や広告運用の最適化といった改善策を実行し続けます。
D2C立ち上げのロードマップを見て、そのプロセスの多さに圧倒されたかもしれません。ここでは、特に失敗に繋がりやすいポイントを踏まえ、成功確率を上げるための10の秘訣を解説します。
最も多い失敗原因が、この「顧客解像度の低さ」です。「良い商品を作れば売れるはず」という作り手目線の発想は非常に危険です。常に「顧客はなぜ、他のブランドではなく私たちのブランドを選ぶのか?」を自問自答し、ペルソナが抱える深い悩みや課題(インサイト)を徹底的に掘り下げましょう。
モノが溢れる現代において、機能的な価値だけで差別化を図ることは困難です。創業者の想い、商品開発の裏側、ブランドが目指す社会など、ブランドの背景にある「ストーリー」を語りましょう。そのストーリーに共感した顧客は、価格ではなく価値でブランドを選んでくれる熱心なファンになります。
最初から完璧な商品を大量に生産し、大規模な広告を打つのはハイリスクです。まずは最小限の機能を持つ製品を小ロットで作り、市場に投入します。そして、初期顧客からのフィードバックを元に高速で製品やサービスを改善していく「リーンスタートアップ」の考え方が、D2Cでは非常に有効です。
D2CとSNSの親和性は非常に高いです。単なる宣伝媒体として使うのではなく、顧客と双方向のコミュニケーションを行う「コミュニティ」として活用しましょう。顧客の声に耳を傾け、時には商品開発に巻き込むことで、顧客は「消費者」から「ブランドを共に育てるパートナー」へと変わっていきます。
新規顧客の獲得にばかり目が行きがちですが、D2Cビジネスの安定はLTVにかかっています。初回購入で終わらせず、2回目、3回目と継続してもらうための仕掛け(ステップメール、同梱物の工夫、会員プログラムなど)を事業の初期段階から設計しておくことが重要です。
事業の成長フェーズに合わないプラットフォームを選んでしまうと、後から乗り換える際に多大なコストと手間がかかります。将来的な事業拡大(販売チャネルの追加、越境ECなど)を見据え、拡張性の高いShopifyのようなプラットフォームを最初から選んでおくことが、結果的に近道になるケースが多いです。
「注文した商品がなかなか届かない」「届いた商品の梱包が雑だった」といった物流面での不満は、ブランドイメージを大きく損ないます。自社での対応が難しい場合は、信頼できる物流パートナー(3PL)と早期に連携することを検討しましょう。
特に化粧品や健康食品などを扱う場合、薬機法(旧薬事法)や景品表示法などの法律を正しく理解する必要があります。「治る」「痩せる」といった効果効能を謳う表現は厳しく制限されています。知らずに違反してしまうと、重い罰則が科される可能性があるため、専門家によるチェックが不可欠です。
D2Cは立ち上げから黒字化まで、一定の時間がかかります。特に初期の集客コストや在庫コストは想定以上にかかることも少なくありません。運転資金がショートして事業継続が困難になる、という事態を避けるためにも、キャッシュフローを常に意識し、余裕を持った資金計画を立てましょう。
ここまで見てきたように、D2Cの立ち上げには、ブランディング、マーケティング、サイト構築、法律、財務など、非常に多岐にわたる専門知識が求められます。これらすべてを自社だけで完璧にこなすのは至難の業です。それぞれの分野で実績のある専門家やパートナーを見つけ、外部の知見を積極的に活用することが、成功への最短ルートと言えるでしょう。
ここでは、D2Cモデルで成功を収めている国内ブランドを3つ取り上げ、その立ち上げ戦略と成功要因を詳細に分析します。
FABRIC TOKYOは、「自分らしいビジネスウェア」をコンセプトに、カスタムオーダーのスーツやシャツをD2Cモデルで提供するブランドです。
創業者の森雄一郎氏は、自身がアパレル業界で感じた「サイズの合わない服を着るストレス」や、従来のオーダースーツ業界が持つ「価格の不透明さ」「敷居の高さ」といった課題を解決したいという想いから、2014年にサービスを開始しました。「誰もが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできるオープンな社会をつくる」をビジョンに掲げ、テクノロジーを活用してオーダースーツを民主化することを目指しました。
FABRIC TOKYOの成功を語る上で欠かせないのが、OMO(Online Merges with Offline)戦略です。
この仕組みにより、「オーダーメイドの手間」と「ECで服を買う際のサイズ不安」という2つの大きな課題を同時に解決しました。オンラインの利便性とオフラインの体験価値を融合させた、まさにD2Cのお手本とも言える戦略です。また、蓄積された顧客データや購入データを活用し、新商品の開発やマーケティング施策の精度向上にも繋げています。
COHINA(コヒナ)は、身長155cm以下の小柄な女性に特化したアパレルブランドです。創業者の原体験から生まれたニッチなコンセプトで、多くの女性の共感を呼び、急成長を遂げています。
創業者の田中絢子氏と清水葵氏は、共に身長150cm前後で、服選びに長年悩み続けていました。「Sサイズでも袖が長い」「デザインが気に入ってもサイズが合わない」という小柄女性特有のペイン(悩み)を解決するため、「あなたに陽が当たる服」をコンセプトに、2018年にブランドを立ち上げました。
COHINAの成功要因は、ターゲットを深く理解し、顧客と密な関係を築くコミュニティ戦略にあります。
COHINAは、単に商品を売るのではなく、SNSを通じて「小柄女性の悩みに寄り添うコミュニティ」を形成することで、熱狂的なファンを育てることに成功したのです。
BULK HOMME(バルクオム)は、「THE BASIC」をコンセプトに、高品質なメンズスキンケア製品を提供するD2Cブランドです。
2013年、代表の野口卓也氏が、当時まだ市場が未成熟だったメンズスキンケア領域で、本質的な価値を持つブランドを作りたいという想いから創業しました。ブランド名の「BULK」は、英語で「中身」を意味します。広告やマーケティング手法ではなく、「製品の品質(中身)で勝負する」という強い意志が込められています。
BULK HOMMEは、その卓越したブランディング戦略で市場を切り拓いてきました。
機能だけでなく、感性に訴えかけるブランディングによって、BULK HOMMEはメンズスキンケア市場のD2Cのパイオニアとしての地位を不動のものにしました。
最後に、D2Cの立ち上げを検討されている方からよく寄せられる質問にお答えします。
A. 事業規模や扱う商材によって大きく異なりますが、スモールスタートであれば数十万円から可能です。
主な費用の内訳は以下の通りです。
100万円~300万円程度の初期費用を見込んでおくと、比較的スムーズなスタートが切れるでしょう。綿密な事業計画を立て、必要な資金を事前に把握しておくことが重要です。
A. 構想からサイトオープンまで、最短でも3ヶ月~6ヶ月程度は見ておきましょう。
一般的なスケジュールの目安は以下の通りです。
これらのプロセスは並行して進めることも可能ですが、特に商品開発は時間がかかるケースが多いため、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。
A. 可能です。しかし、成功確率を高めるためには専門家のサポートが不可欠です。
Shopifyなどの便利なツールを使えば、プログラミングの知識がなくてもECサイトを作ることはできます。しかし、本記事で解説した通り、D2Cの成功には、集客マーケティング、ブランディング、CRM、データ分析など、非常に多岐にわたる専門性が求められます。
「サイトは作れたが、全く売れない」「広告費をかけたが、赤字が膨らむばかり」といった失敗に陥らないためにも、信頼できるパートナーに相談することをおすすめします。
この記事では、D2Cブランド立ち上げの全貌を、7つのステップと10の秘訣、そして具体的な成功事例を通して解説してきました。
D2Cは、中間業者を介さず顧客と直接繋がることで、高い収益性と深い顧客関係を築ける、非常に魅力的なビジネスモデルです。しかし、その裏側では、ブランド戦略、商品開発、ECサイト構築、Webマーケティング、CRM、物流、法務、財務といった、あらゆる専門知識が求められる総力戦でもあります。
これらの領域すべてで高いパフォーマンスを発揮し、事業を成功に導くことは、決して簡単な道のりではありません。
もしあなたが、D2Cの立ち上げに少しでも不安を感じていたり、最短ルートで成功を目指したいと考えていたりするなら、ぜひ一度StockSunにご相談ください。
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