「会社の資金調達で、第三者割当増資という方法があると聞いたけど、具体的にどのような仕組みなんだろう?」
「メリットやデメリット、手続きの流れが知りたい」
会社の成長戦略を考える上で、上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。第三者割当増資は、融資とは異なる資金調達の選択肢として、また事業の提携強化など、さまざまな目的で活用される手法です。
本記事では第三者割当増資の基本的な仕組みから、実施する目的、メリット・デメリット、具体的な手続きの流れや注意点まで、専門的な内容を分かりやすく解説します。
増資の知識を深めたい方はぜひご参照ください。
もし、第三者割当増資の活用でお悩みなら、実績豊富な「StockSun株式会社」にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なプランをご提案します。
目次
第三者割当増資とは、企業が新しく株式を発行し、特定の第三者に買い取ってもらうことです。割り当てる相手は、取引先企業や業務提携先、自社の役員など特定の人物や法人に限られます。
第三者割当増資は、銀行からの融資と違って返済の必要がない資金をえられるのが大きな特徴です。単なる資金調達だけでなく、特定の企業と資本関係を結び、パートナーシップを強化する目的で実施されることもあります。
ただし、既存の株主以外の第三者に株式を割り当てるため、既存株主の持ち株比率は低下します。完全な買収とは異なり、経営の独立性をある程度保ちながら、外部からの支援を受け入れるのが特徴です。
次の記事ではM&Aの全体像を把握できます。M&Aの目的や流れを知りたい方は、あわせてご覧ください。
M&Aとは? 主な目的や事業継承のデメリット・基本的な流れを徹底解説
企業が第三者割当増資を実施する背景には、さまざまな経営上の目的があります。ここでは、代表的な3つの目的を解説します。
それぞれの目的を理解しておくと、第三者割当増資がどのような場面で有効な手段となるのかが、より明確になります。
第三者割当増資が利用される最も一般的な目的は、事業に必要な資金の調達です。とくに新規事業の立ち上げや事業の拡大には、多額の設備投資や運転資金が必要になる場合があります。
金融機関からの融資は返済義務と利息が発生しますが、第三者割当増資で得た資金は自己資本となるため、返済の必要がありません。これにより、財務状況を圧迫することなく、安定した経営基盤の上で事業を推進できます。会社の理念や将来性に共感してくれるパートナーから直接資金を得られるのも、大きな利点です。
第三者割当増資は、単なる資金調達にとどまらず、取引先や提携先との関係をより強固にするためにも活用されます。相手企業に株主になってもらうことで、両社は単なる取引相手から、資本を共有するパートナーへと変わります。
資本業務の提携により、相手企業は経営に参画する形で、より積極的に事業へ協力してくれるようになります。例えば、出資者が持つ専門的なノウハウや技術、販売網などの経営資源を共有してもらえる可能性があります。お互いの強みを活かし合うことで、一社だけでは成し得ない大きなシナジー効果が期待できるでしょう。
第三者割当増資は、会社の事業承継を円滑に進めるための手段にも活用されます。事業承継では、後継者が先代の経営者から会社の株式を買い取る必要がありますが、株価が高いと後継者の税負担(贈与税や相続税)が重くなる問題があります。
第三者割当増資を行い、会社の株式総数を増やすと、一株あたりの価値は相対的に下がるため、後継者が株式を取得しやすくなります。税金の負担のハードルを下げることで、後継者へのスムーズなバトンタッチが可能です。
第三者割当増資は、株式を割り当てる「売り手」企業と、それを引き受ける「買い手」の双方にメリットをもたらします。
それぞれの立場から見た利点を理解し、Win-Winの関係を築ける可能性を探りましょう。
買い手にとっての大きなメリットは、対象企業との間に強固な資本関係を築けることです。株式を引き受けることで、単なる業務上の付き合いから一歩進んだパートナーシップを構築し、共同で事業を成長させていく基盤ができます。
また、対象企業の株式をすべて取得するわけではないため、投資リスクを限定できるのも利点です。万が一、相手企業の経営が傾いた場合でも、すべての責任を負うわけではありません。
日本の商慣習上、大株主には「道義的責任」が問われることがありますが、他の株主と責任を分担する形になるため、リスクを抑えながら協力関係を深められます。
売り手である企業にとって最大のメリットは、返済義務のないまとまった資金を確保し、財務基盤を強化できる点です。調達した資金は、借入金のように返済計画に縛られることなく、事業の成長投資に柔軟に活用できます。
さらに資本金が増えることで会社の信用力が高まり、金融機関からの追加融資を受けやすくなったり、取引先との関係が有利になったりする効果も期待できます。とくに株式の譲渡に制限がない公開会社の場合、手続きを比較的迅速に進められる取締役会の決議だけで増資を決定できるケースもあり、機動的な資金調達が可能です。
多くのメリットがある一方で、第三者割当増資にはデメリットや注意点も存在します。ここでは、買い手と売り手それぞれの立場で考慮すべき点を解説します。
第三者割当増資を成功させるためにも事前にリスクを把握し、対策を講じましょう。
買い手にとってのデメリットは、株式の一部しか取得できないため、相手企業の経営権を完全に掌握できないことです。経営の意思決定に影響を与えられますが、取得する議決権の割合によっては、重要な経営判断を単独で進められません。
そのため、経営方針をめぐって他の株主と意見が対立した場合、意思決定が滞るリスクがあります。また株式譲渡による買収と比べて、必ずしも少ない資金で済むとは限りません。経営への関与が限定的になる可能性を理解した上で、出資を判断する必要があります。
売り手企業にとって最も注意すべきデメリットは、新株発行によって既存株主の持ち株比率が低下する点です。これを「株式の希薄化」といいます。持ち株比率が下がると、既存株主の議決権割合が低下し、経営への影響力が弱まる可能性があります。
結果的に既存株主の不満につながることがあるため、なぜ増資が必要なのか、会社にとってどのようなメリットがあるのかを丁寧に説明し、理解をえるプロセスが不可欠です。また、増資によって資本金が増加すると、支払う法人住民税などの税金が高くなる場合がある点も、あらかじめ考慮しておく必要があります。
第三者割当増資を実施する際、新株の価格をいくらに設定するかはとても重要な問題です。株価の算定には、客観的で合理的な根拠が求められ、主に3つのアプローチが用いられます。
次の記事ではM&Aでの企業価値評価を紹介しています。手法や算定方法も分かるので、価格設定に悩んでいる企業はぜひ参考にしてください。
M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは?3つの手法や算定方法を解説
マーケットアプローチは、株式市場やM&A市場などマーケットでの取引価格を基準に株価を評価する方法です。具体的には、事業内容などが似ている上場企業の株価や、過去に行われた同業他社のM&A事例などを参考にします。
マーケットアプローチの長所は、市場での客観的な評価を基準にするため、説得力が高い点です。市場参加者が実際に付けた価格を基にするため、実態を反映しやすくなっています。
ただし非上場企業の場合、比較対象となる類似企業や事例を見つけるのが難しいケースもあります。その場合は、他のアプローチと組み合わせて評価するのが一般的です。
コストアプローチは、企業の貸借対照表に記載されている資産から負債を差し引いた「純資産」を基準に株価を評価する方法です。企業の財産的な価値に着目して評価します。
代表的な手法として、帳簿上の純資産額をそのまま使う「簿価純資産法」があります。コストアプローチは、客観的なデータに基づいて計算できるため、評価がしやすいのが特徴です。ただし、帳簿価額は必ずしも現在の価値を反映しているわけではありません。また、企業の将来的な収益力やブランド価値など、帳簿に載らない無形の資産は評価に反映されにくいデメリットがあります。
インカムアプローチは、企業が将来生み出すと予測される利益やキャッシュフロー(現金の流れ)を基準に株価を評価する方法です。企業の将来性や収益力に着目しています。
代表的なDCF法では、将来の事業計画に基づいて収益を予測し、「現在価値」に割り引いて企業全体の価値を算出します。企業の成長性を直接的に評価に反映できるのが最大のメリットです。ただし、将来の予測はあくまで計画であり、計画の立て方によって評価額が大きく変動するため、評価者の主観が入りやすい点には注意が必要です。
第三者割当増資は、会社法に定められた手順にしたがって、正確に進める必要があります。ここでは、手続きの主な流れを5つのステップに分けて解説します。
手続きの全体像をつかみたい場合は、上記のステップを具体的に理解しましょう。
まず会社は新しく発行する株式に関する条件、すなわち「募集事項」を決定します。具体的には、次の4つを決めます。
募集事項の決定は、原則として株主総会を開き、議決権の3分の2以上の賛成が必要な「特別決議」によって行われます。とくに市場価格よりも著しく低い価格で株式を発行する「有利発行」に該当する場合は、なぜその価格で発行する必要があるのかを株主総会で説明し、承認を得なければなりません。
次に募集事項が正式に決定したら、内容を株式の引受先となる第三者に通知します。会社は「誰に」「何株を」「いくらで割り当てるか」などの情報を、払込期日の2週間前までに通知する義務があります。
通知により、引受先は正式な引き受け条件を確認し、申し込みの準備を進めることが可能です。なお、広く投資家に情報を開示する「募集または売出しの届出」を金融庁に行っている場合は、個別の通知や公告は不要とされることもあります。
募集事項の通知を受けた引受先は、株式を引き受ける場合、会社に対して正式に申し込みを行います。申込書に記載する内容は、主に氏名や住所、引き受ける株式数などです。
申込書の提出をもって、引受先が株式を引き受ける意思を法的に表明したことになります。会社側は提出された申込書の内容を確認し、誰に何株を割り当てるかを最終的に決定します。つまり、増資の具体的な内容が確定するのは、申し込みのプロセスが終わったあとです。
株式の割当てが決まった引受先は、定められた「払込期日」までに、引き受ける株式数に応じた金額の全額を、会社が指定する銀行口座などに払い込みます。
通常、払い込みは金銭で行われます。もし、定められた期日までに払い込みが完了しなかった場合、引受人は株主となる権利を失ってしまいます。会社がすべての引受人からの払い込みが完了したことを確認できたら、増資の効力が発生します。
出資金の払い込みが完了し、増資の効力が発生したら、最後に法務局での変更登記を行います。会社は効力発生日から2週間以内に、資本金の額や発行済株式総数が変更されたことを登記申請しなければなりません。
変更登記には、株主総会の議事録や出資金の払込があったことを証明する書類などが必要です。登記が完了すると、登記事項証明書(登記簿謄本)にも新しい情報が反映され、第三者割当増資に関する一連の法的な手続きがすべて完了したことになります。
第三者割当増資を進める上では、法的なルールや株主への配慮など、いくつか重要な注意点があります。
まず、市場価格よりも著しく有利な価格で新株を発行する「有利発行」を行う場合は、株主総会での特別決議が必須です。特別決議を怠ると、手続き自体が無効になる可能性があります。
また新株発行による「株式の希薄化」で既存株主の持ち株比率が低下するため、なぜ増資が必要なのかを丁寧に説明し、理解をえることが不可欠です。
最後に、増資の効力発生日から2週間以内に登記変更する点も重要です。期限を過ぎると、制裁金が科される場合があります。変更に関するルールは株主の権利を守るためのものなので、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが大切です。
第三者割当増資は、返済不要の資金を確保できる強力な手段である一方、既存株主の権利に影響を与え、会社法に則った複雑な手続きが求められます。
ガバナンスの低下や持ち株比率の低下などのデメリットも存在するため、実施する際は慎重な準備と株主への丁寧な説明が不可欠です。
もし自社で第三者割当増資を検討しており、進め方や判断に迷っているのであれば、専門家への相談が成功への近道です。「StockSun株式会社」には、M&Aや資金調達に精通したプロフェッショナルが多数在籍しています。貴社の状況を丁寧にヒアリングし、最適な資本政策をご提案しているので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。