「M&Aの交渉で、意向表明書が必要だと聞いたけど、一体何?」
「意向表明書には何を書けばいいの?書き方が知りたい」
このように悩んでいる方も少なくないでしょう。
M&Aのプロセスを進める中で登場する「意向表明書」。
特に買い手にとっては、交渉を有利に進めるための重要な第一歩となりますが、その役割や書き方が分からず戸惑う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、M&Aの意向表明書(LOI)とは何か、その目的から具体的な記載内容、「基本合意書」との違いまで詳しく解説します。
この記事を読めば、意向表明書の重要性を理解し、M&A交渉をスムーズに進めるための知識が身につきます。
もし、意向表明書の作成やM&Aプロセス全体で専門的なサポートが必要なら、実績豊富な「StockSun株式会社」にお任せください。
目次
M&Aの意向表明書は、通称LOI(Letter of Intent)とも呼ばれています。
買い手候補の企業が売り手企業に対して「あなたの会社を買収したい」意欲と、その基本的な条件を正式に伝えるための文書です。
例えば、トップ同士の面談を終え、買収の意思が固まった買い手が、「買収希望価格は〇億円で、従業員の雇用は維持します」などの内容をA4用紙2~3枚程度にまとめて売り手に提出します。
意向表明書を受け取ることで、売り手は買い手の本気度や考えている条件を具体的に把握できます。
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意向表明書は、M&Aの交渉プロセスで重要な役割を担います。
なぜこの書類を作成する必要があるのか、その主な目的は以下の3つです。
上記の目的を理解することで、意向表明書の重要性がより深く分かります。
意向表明書を作成する第一の目的は、買い手が売り手に対して、「M&Aを実行したい」という強い意志を公式な形で明確に伝えることです。
口頭での意思表示だけでなく、文書として提出することで、その本気度と誠実さを示します。
売り手側からすれば、意向表明書を受け取ることで、買い手の真剣さを判断しやすくなります。
複数の買い手候補がいる場合でも、意向表明書の内容を比較することで、どの相手と優先的に交渉を進めるべきかを選定する際の重要な判断材料になるのです。
意向表明書の第二の目的は、買い手が希望する取引の基本的な条件を、売り手に具体的に提示し、その内容を共有することです。
例えば、買収価格の目安、買収の方法(株式譲渡か事業譲渡かなど)、今後のスケジュールなどの、M&Aの骨子となる条件を記載します。
希望条件をあらかじめ書面で示すことで、売り手は買い手の考えを正確に把握できます。
両者の間で認識のズレが生じるのを防げるため、後の交渉をスムーズに進めるための土台を築けるのです。
第三の目的は、買い手が売り手に対して「独占交渉権」を求めることです。
独占交渉権とは、一定の期間、他の買い手候補と交渉せず、自分たちとだけ交渉を進めてもらう権利を指します。
買い手は、M&Aを進めるにあたり、企業の詳細な調査(デューデリジェンス)などで多額の費用と時間を投じなければなりません。
もし、他の候補者と並行して交渉が進められると、最終的に別の会社に買収されてしまい、投じた費用が無駄になるリスクがあります。
独占交渉権を確保することで、買い手は安心して調査や交渉に専念できます。
意向表明書(LOI)とよく似た書類に「基本合意書(MOU)」があります。
この2つの主な違いは、「誰が作成し、どの段階で交わされるか」の点です。
意向表明書(LOI) | 基本合意書(MOU) | |
作成者 | 買い手(一方的) | 買い手と売り手(双方) |
目的 | M&Aへの関心・希望条件の伝達 | 主要な取引条件の合意形成 |
法的拘束力 | 原則なし | 一部の条項であり |
意向表明書は、交渉の初期段階で買い手が一方的に「買いたい」意思と希望条件を伝えるものです。
一方、基本合意書は、意向表明書の内容をもとに交渉を進め、売り手と買い手の双方が主要な条件に関して合意した内容を確認するために交わす契約書を指します。
そのため、基本合意書では独占交渉権などの一部の条項に法的拘束力を持たせるのが一般的です。
M&Aのプロセスで意向表明書を提出する一般的なタイミングは、売り手と買い手のトップ同士が面談を終えた直後です。
この段階は、本格的な交渉が始まるスタートラインです。
トップ面談を通して、買い手は「この会社を買収したい」意思を固めます。
その熱意を具体的な条件とともに意向表明書として示すことで、売り手はその本気度を測ることが可能です。
売り手は、受け取った意向表明書の内容を吟味し、複数の候補者がいる場合は、どの相手と交渉を進めるかを選定します。
意向表明書には、決まった書式はありませんが、一般的に記載される主要な項目があります。
ここでは、特に重要な11項目を解説します。
上記の項目を盛り込むことで、売り手との円滑な交渉につながります。
意向表明書の冒頭には、まず買い手企業の概要を記載します。
企業概要は、売り手に対して「私たちはこういう会社です」と自己紹介する部分です。
具体的には、以下の内容を簡潔にまとめましょう。
上記の基本情報を正確に伝えることで、買い手企業の信頼性や事業規模を売り手に理解してもらい、安心して交渉を進めてもらうための第一歩となります。
次に、「なぜこのM&Aを行いたいのか」「M&Aによってどのような相乗効果を期待しているのか」などの目的と戦略的な意義を記載します。
これは、単に会社を買いたい意思だけでなく、M&A後の未来像を売り手と共有するための重要な項目です。
例えば、「貴社の技術力と当社の販売網を組み合わせることで、新市場を開拓したい」などの具体的なビジョンを示します。
これにより、売り手は自社が買収後にどのように成長できるのかをイメージでき、交渉へのモチベーション向上や信頼関係の構築につながります。
希望するM&Aスキームでは、買い手がどのような取引形態でM&Aを実施したいかを具体的に示します。
M&Aの手法には、会社の株式をすべて取得する「株式譲渡」や、特定の事業部門だけを買い取る「事業譲渡」など、さまざまな種類があります。
意向表明書には、「株式譲渡により、発行済株式の100%を取得することを希望する」などの形で、希望するスキームとその理由を明確に記載しましょう。
このスキームを事前に提示することで、後の交渉の前提条件を明確にし、双方の認識のズレを防げます。
買収価格は、意向表明書の中でも重要な項目の一つです。
買収価格と算定根拠の欄には、「希望する買収金額」と、「その金額をどのように算出したか」の算定根拠をセットで提示します。
例えば、「希望買収価格:〇〇億円。算定根拠:DCF法に基づき、将来の収益性を評価」のように記載しましょう。
価格の根拠を明確にすることで、提示価格の妥当性や誠実さを売り手に伝えられるため、価格交渉を円滑に進めるための信頼関係を築けます。
買収に必要な資金をどのように準備するのかを具体的に示すことも重要です。
資金の調達方法には、自社の手元資金(自己資金)でまかなうのか、銀行からの融資を利用するのか、などの選択肢があります。
意向表明書に「買収資金は全額自己資金にて調達予定」などと明記することで、売り手は買い手の資金力とM&Aの実行能力を判断できます。
これにより、売り手は「本当にこの会社は買収資金を支払えるのか」などの不安を払拭でき、安心して交渉を進められるのです。
M&Aが成立した後、会社をどのように経営していくのか、その方針や事業計画を記載します。
上記の内容は、売り手とその従業員の将来に関わる重要な項目です。
例えば、「既存事業をさらに強化し、海外展開を目指す」「従業員の雇用は現状のまま維持し、企業文化を尊重する」などの具体的な方針を示しましょう。
上記の内容を通して、売り手は自社が大切に育ててきた事業や従業員が、買収後も大切にされるかどうかを判断できます。
スケジュールや要望欄には、M&Aのプロセスの主要な日程の希望を具体的に記載します。
今後の大まかな流れを共有することで、交渉を計画的に進められます。
記載する主なスケジュール項目は、「基本合意締結日」「デューデリジェンス期間」「最終契約締結日」などです。
各工程の目標時期を明記しておくと、売り手と買い手の双方が今後の見通しを立てやすくなります。
手続きの遅延や交渉の混乱を防ぎ、M&Aのプロセスをスムーズに進行させるためにも重要な項目です。
デューデリジェンス(DD)とは、M&A対象企業の価値やリスクを詳細に調査するプロセスです。
意向表明書では、このDDをどの範囲で、どのように実施したいかを記載します。
調査範囲は、財務、法務、税務、事業など多岐にわたります。
実施方法としては、必要な資料のリストアップや経営陣へのヒアリング、現地調査などを挙げましょう。
DDの範囲や方法を事前に伝えることで、売り手はどのような情報を準備すればよいかが分かり、協力が得やすくなります。
DD(デューデリジェンス)に関してより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
DD(デューデリジェンス)とは? 目的や行うタイミング、実施手順を3STEPで解説
独占交渉権とは、一定期間、売り手が他の候補者と交渉せず、意向表明書を提出した買い手とだけ交渉を進める権利です。
買い手は、DDなどに多額の費用を投じるため、他の候補者に契約を横取りされるリスクを避けたいと考えます。
そのため、意向表明書で「〇月〇日まで、当社に独占交渉権を付与してください」とわかりやすく明示的に依頼するのが一般的です。
独占交渉権を得ることで、買い手は安心して費用と時間をかけて交渉に臨めます。
意向表明書には、その内容がいつまで有効かを示す「有効期限」を明確に記載します。
例えば、「本書の有効期間は、〇年〇月〇日までとします」などの形で、具体的な日付や条件を決めていきましょう。
有効期限を設けることで、交渉が不必要に長引くのを防ぎ、双方に意思決定のタイミングを意識させられます。
また、「基本合意書が締結された時点で本書は失効する」など、効力が失われる条件も併記することで、後のトラブルや認識のズレを避けられます。
意向表明書は、原則として法的な拘束力を持たない「紳士協定」としての文書です。
これは、あくまで交渉の初期段階での意思表示であり、記載された条件に双方が縛られるものではないからです。
ただし、「独占交渉権」や「秘密保持義務」などの特定の条項に関しては、当事者間の合意によって法的な拘束力を持たせることが可能です。
意向表明書の最後に「本意向表明書は、〇条と〇条を除き、法的な拘束力を有しないものとする」と明記すると、どの部分が法的義務をともなうのかを明確にできるため、後の紛争を防げます。
買い手側が意向表明書を作成する際には、いくつかの重要な注意点があります。
まず、記載内容に誤りがないか細心の注意を払い、売り手の立場を理解した誠実な姿勢で作成・提示するのが大前提です。
希望する買収額やスケジュールは、曖昧にせず明確に記載し、設定した提出期限はしっかり守りましょう。
上記のポイントを意識することで、売り手からの信頼を得られ、円滑な交渉につながります。
意向表明書は、専門的な内容を多く含むため、M&Aアドバイザーや弁護士などの専門家のサポートを受けながら作成するのがポイントです。
売り手側が意向表明書を受け取った際には、いくつかの点を注意深く確認する必要があります。
まず、提示された買収金額や条件が、自社の希望や市場の相場と合っているか、その算出根拠は合理的かを確認します。
次に、買い手企業の概要を見て、信頼できる相手か、会社の信用力は十分かをチェックしましょう。
さらに、買収後の経営方針や従業員の処遇など、具体的な記載があるかどうかも重要です。
自社として譲れない点が反映されているか、今後の交渉の出発点として適切かを冷静に判断しなければなりません。
M&Aでの意向表明書は、買い手が売り手に対してM&Aへの真摯な意欲と具体的な希望条件を伝えるための、重要な公式文書です。
買い手企業の概要からM&Aの目的、希望する取引形態、買収価格とその根拠など、多岐にわたる項目が記載されています。
上記の内容は、売り手にとって交渉を進めるかどうかを判断する上で重要な情報であり、買い手の熱意や誠実さを示す役割も担います。
案件ごとに記載内容は調整されますが、その本質は、円滑な交渉の土台を築くためのコミュニケーションツールであることに変わりありません。
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