近年、日本国内のEC市場は成熟を迎え、競争も激化しています。
特に大手プラットフォーム依存や広告費の高騰により、新規顧客の獲得やLTVの向上が難しくなっています。そのような状況下で注目されているのが、海外マーケットへの参入、いわゆる越境ECです。その中でもAmazonグローバルセリングは、参入障壁が低く、物流・決済・カスタマー対応などの機能が整っているため、特に中小企業から高い支持を受けています。
本記事では、導入の背景から課題、実践ステップ、費用感や成功事例まで、Amazon海外販売の全体像を詳細に解説します。
目次
世界のEC市場は急拡大を続けており、特にアメリカ・ヨーロッパ・東南アジアを中心に大きな成長を見せています。たとえばアメリカではEC化率が20%を超え、Amazonはその中核を担っています。中国では独自のプラットフォームが主流ですが、欧米ではAmazonの影響力が圧倒的です。
一方、日本国内のEC市場は頭打ち感が否めません。価格競争に陥る事業者も多く、海外展開の必要性が高まっています。
その中で注目されているのが、Amazonの海外販売です。北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなど20カ国以上にマーケットプレイスを展開し、FBA(Fulfillment by Amazon)を使えば、現地倉庫に納品するだけで出荷・返品・カスタマー対応をすべてAmazonが代行してくれます。
「グローバルリンク」機能を使えば、複数国のアカウントを一元管理でき、在庫や売上の確認も一括で対応可能。ログインの手間やID管理の煩わしさも軽減され、運用効率が格段に向上します。
もちろん、税務対応や現地ニーズに合わせた商品リサーチなど、越境ECならではの課題も存在します。そこで役立つのが、各種サポートツールや支援体制。こうした環境が整ってきたことも、Amazon海外販売への注目度を高めている理由の一つです。
加えて、Amazonと日本貿易振興機構(JETRO)が連携して展開する「JAPAN STOREプログラム」も大きな後押しとなっています。これは、Amazon.com(アメリカ)やAmazon.co.uk(イギリス)上に設けられた「JAPAN STORE」に日本製品を掲載できる制度です。
出品には審査が必要ですが、支援も充実しており、海外販売が初めての事業者にも安心の設計。官民連携による支援が整い、今まさに越境ECへの参入ハードルが下がってきているのです。
とはいえ、Amazon海外販売は簡単ではありません。意外と見落とされがちなのが、販売以前の“前提条件”となる構造的な課題です。越境ECにおける課題の本質は、日本国内の感覚のままでは通用しない“見えない壁”の存在にあります。それらに適切に対応しなければ大きなトラブルにつながる可能性もあります。
まず大きな壁となるのが、言語と文化の違いです。ただ翻訳するだけでは伝わらず、現地の検索ニーズやニュアンスに即した“ローカライズ”が求められます。キーワードのずれや不自然な表現は、検索結果にすら表示されず、ページ流入ゼロということも起こり得ます。
次に大きな課題となるのが税制です。欧州ではVAT登録が義務化されており、国ごとに異なる制度への対応が必要です。アメリカでもSales Taxは州によって異なり、複数州への出荷を行うと、申告の難易度が一気に上がります。こうした複雑な制度に対する理解と準備が不可欠です。
また、カスタマー対応の文化も日本とは異なります。欧米では、顧客対応の遅延や不親切な表現が即座にレビューへ反映されるため、運用以前に“対応基準”そのものの見直しが必要になります。
さらに、前述したグローバルリンクを使えば複数国のアカウントを一元管理できますが、リスク分散はできなくなります。1つのアカウントが停止されると、全ての国での販売が同時に止まってしまう可能性も。
このリスクを避けるためには、Amazonのポリシーを事前に確認し、正しい出品・運用を徹底することが不可欠です。一度停止されたアカウントの復旧は難しく、慎重な管理が求められます。
Amazonで海外販売を始めるうえで、まず重要なのが「どの国に出品するか」というマーケット選定です。Amazonは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなど、20カ国以上にマーケットプレイスを展開しており、統合アカウントを使えば複数国への同時出品も可能です。
とはいえ、市場規模が大きい=成功しやすいとは限りません。国ごとに競争環境、税制、消費者ニーズ、物流体制が異なるため、それらを理解したうえで自社に合った戦略を立てることが求められます。
たとえば、北米最大の市場であるアメリカ(Amazon.com)は、世界中のセラーが競い合う超激戦区です。市場規模は非常に大きいものの、広告のクリック単価(CPC)も高く、単なる価格競争では太刀打ちできません。商品力だけでなく、緻密な広告戦略と予算設計が求められます。
一方で、カナダ(Amazon.ca)やメキシコ(Amazon.com.mx)はアメリカに比べると競争が緩やかで、特に新規参入にとっては狙い目の市場です。アメリカのFBA倉庫に在庫を納品していれば、「NARF(北米リモートフルフィルメント)」を活用してカナダやメキシコへの販売も可能になります。ただし、配送日数や手数料が異なるため、費用対効果を見極めた運用が必要です。
ヨーロッパでは、イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スペインなど複数国に対して、1つの統合アカウントで出品できるメリットがあります。ただし、VAT(付加価値税)の登録が義務づけられており、各国で異なる税率や申告ルールへの対応が求められます。特にドイツやイギリスは市場規模が大きい分、競争も激しく、現地の文化やニーズを反映した商品ページやレビュー戦略が必要です。
また、物流面では「EFN(欧州リモートフルフィルメント)」や「Pan-European FBA」といったスキームを活用すれば、1カ国のFBA拠点から複数国への配送が可能になります。ただし、Pan-European FBAを利用する場合は在庫を保管する各国ごとにVAT登録が必要になるため、事業フェーズに応じた選択が求められます。
アジア市場では、日本以外にインドやシンガポールといった新興国が注目を集めています。とくにインドはEC市場の拡大が著しい一方で、外資規制や独自の物流事情など複雑な環境が存在し、事前の入念な調査と体制構築が欠かせません。
オセアニアでは、オーストラリアが新興市場として成長を続けています。まだ競争がそこまで激しくなく、新規セラーにもチャンスがある一方で、市場規模は限られており、物流コストや関税への対策が重要になります。
このように、地域ごとの特徴を理解したうえで、自社商品の適性やリソースに合ったマーケットを選定することが、海外販売を成功させる第一歩となります。
アカウント設計を戦略的に行うことで、運用効率とリスク管理の両立が可能になります。Amazon海外販売では、日本国内と海外マーケットそれぞれに出品アカウントを用意し、適切に連携・管理することが事業成功の土台となります。
まずは日本国内向けの出品アカウントを作成し、企業情報や本人確認書類、銀行口座情報などを登録します。その後、セラーセントラルの「グローバルセリング」から、出品したい国や地域のアカウントを追加で開設していきます。たとえば、ヨーロッパ向けアカウントを一つ作成すれば、ドイツ・フランス・イタリアなど複数国にまとめて出品することが可能です。
複数国での出品をスムーズに行うためには、各アカウントを「グローバルリンク」で紐づけ、一元管理できる状態を整えておくことが重要です。これにより、在庫・注文・売上などの情報を一画面で確認・管理でき、運用負担が大きく軽減されます。
一方で、アカウントをすべて連携することによって分散管理ができなくなるというリスクも存在します。万が一、何らかの理由でアカウントが停止された場合、連携されたすべてのマーケットプレイスで販売が止まってしまう可能性があるため、事前にAmazonのポリシーを十分に理解し、正しい運用と体制づくりを徹底することが求められます。
Amazonでの越境ECにおいて物流戦略は収益に直結する極めて重要な要素です。FBA(Fulfillment by Amazon)を活用すれば、購入者への配送、返品処理、カスタマー対応をAmazonが一括して代行してくれます。
FBAの最大の魅力は、Prime対応による販売機会の増加です。Prime会員は配送スピードや信頼性を重視するため、FBAを利用することでカートボックス獲得率が上がり、競合よりも優位に立てる可能性が高まります。
一方、自社配送(FBM)は初期投資を抑えられますが、配送スピードやサポート対応の品質次第で顧客満足度に大きな差が出ます。特に返品ポリシーが国によって異なるため、現地ルールを十分に理解し、適切な対応フローを整備する必要があります。
「出品しただけでは売れない」――これは海外Amazonでも変わりません。特に競争の激しいマーケットでは、検索結果での上位表示やカートボックスの獲得が売上に直結するため、広告運用とレビュー獲得は不可欠な施策となります。
Amazonには複数の広告フォーマットがありますが、中でも基本となるのが「スポンサープロダクト広告」「ブランド広告(Sponsored Brands)」「ディスプレイ広告(Sponsored Display)」の3つです。スポンサープロダクト広告は、検索キーワードに応じて商品ページを上位に表示できる仕組みで、新規出品者でも露出を得やすいのが特徴です。適切なキーワード設定と入札戦略を組み合わせれば、クリック単価を抑えつつ効率よく集客が可能になります。
ブランド広告は、複数商品を一括で訴求でき、ブランドの世界観や信頼性を伝えるのに適しています。Amazonブランド登録を行っている企業であれば、これを活用することでリピート率向上や購入単価の引き上げも狙えるでしょう。
ディスプレイ広告は、Amazon内外のユーザー行動データをもとに広告を配信する仕組みで、競合商品を閲覧したユーザーや特定ジャンルに関心の高いユーザーに絞って訴求できます。セグメント次第では、高いコンバージョン率を維持しながら大きなリーチを獲得することも可能です。
広告施策に加え、短期的に売上を伸ばしたいタイミングでは、期間限定のクーポンやタイムセールを活用するのも効果的です。ブラックフライデーやプライムデーといった大型セールイベントでは、事前にプロモーションを仕掛けることで競合より優位に立てる可能性があります。
一方で、商品レビューも売上に直結する重要な要素です。レビュー数や評価は検索アルゴリズムにも影響するため、出品初期から積極的に獲得を目指すべきでしょう。Amazon Vineプログラムを活用すれば、信頼性の高いレビュアーによる客観的なレビューを早期に集めることができます。これにより、コンバージョン率の改善や購入検討段階の後押しにつながります。
また、現地市場ではインフルエンサーとの連携も有効です。アメリカやヨーロッパのSNSインフルエンサーと協業し、レビュー動画や紹介投稿を行うことで、現地ユーザーに自然な形で商品の魅力を届けられます。さらに、ブランド登録(Brand Registry)を済ませておけば、模倣品の排除やブランドページの拡充、A+コンテンツの活用も可能になり、ブランド全体の信頼性を高めることにもつながります。
広告、レビュー、ブランド戦略を適切に組み合わせることで、海外Amazon市場においても継続的な売上と顧客基盤の拡大が期待できます。
Amazonで海外販売を始め、ある程度売上が伸びてきた段階で顕在化するのが、運用上の「見えにくい落とし穴」です。順調に売れているように見えても、各国特有の規制やルールに対応できていなければ、思わぬトラブルに発展するリスクがあります。
まず代表的なのがPL保険の未加入です。特にアメリカ市場では、月商が$10,000を超えるとAmazonが定めるPL保険への加入と証書提出が義務化されており、未対応のままではFBAの利用制限や警告の対象になる可能性があります。他国では明確な義務はないものの、海外では損害賠償請求のリスクが高く、保険未加入の状態での販売は非常に危険です。販売開始前または初期の段階で、PL保険の加入を検討しておくのが安全です。
税務面でも、ヨーロッパではVAT(付加価値税)の登録が必須となり、各国で異なる税率や申告ルールに対応しなければなりません。適切な登録や納税を怠れば、ペナルティの対象になることもあります。またアメリカでは、州ごとにセールスタックス(Sales Tax)のルールが異なります。AmazonがMarketplace Facilitator制度に基づいて代行徴収してくれるケースが多いものの、所得税(インカムタックス)の申告が必要になるケースもあるため、自社の販売形態に応じて、税務コンサルタントのサポートを受けることが重要です。
さらに注意すべきはAmazon出品規約や商品カテゴリーの規制です。医薬品、化粧品、食品、電化製品などは国ごとに販売条件が異なり、認可・認証がなければ販売自体が禁止されていることもあります。知らずに出品を行えば、アカウント停止や法的措置のリスクもあるため、出品前に最新のAmazonガイドラインを必ず確認しましょう。
知的財産権の管理も見落とされがちなポイントです。自社ブランドを展開する場合、進出国で商標権がすでに他社に登録されていれば、出品停止だけでなく、損害賠償請求に発展するリスクもあります。AmazonのBrand Registryに登録していれば一定のブランド保護機能はありますが、商標権は各国ごとの取得が原則です。事前に現地での登録状況を確認し、必要に応じてブランド名やパッケージを見直すなどの対応が求められます。
また、カスタマーサポートや返品対応も重要な運用課題です。現地語に対応できていない、あるいは返品対応に時間がかかると、アカウントの健全性スコアが低下し、BuyBoxを失ったり、表示順位が下がる要因になります。FBAを活用して物流と返品対応を任せるのも一つの手ですが、自社対応を行う場合は、現地の消費者保護法に準拠した返品ポリシーと多言語サポート体制を整備することが必要です。
こうしたリスクを見落としたまま事業を拡大してしまうと、取り返しのつかない損失につながることもあります。だからこそ、海外販売では「売上が立ってからの体制整備」ではなく、「売上が立つ前の備え」が何より重要です。各分野の専門家のサポートも活用しながら、健全かつ継続的に成長できる運用体制を構築していきましょう。
Amazonグローバルセリングにかかる費用は、初期費用と月次運用費に分けられます。
【初期費用】
・アカウント構築やKYC登録:無料
・商品ページ作成(翻訳・画像制作):5〜15万円/SKU
・物流費(FBA納品・国際送料・梱包資材):10〜30万円
・VAT登録や税務代理人費用:1国5〜10万円程度
【月次費用】
・Amazon大口出品料:月39.99米ドル(多国展開でもこの金額)
・広告運用費:5〜30万円
・外注・支援費:10〜50万円(代行会社を活用する場合)
このほか、為替手数料や関税の一時立替などもあるため、現地通貨の為替変動に注意しつつ、価格設定を調整する必要があります。
Amazon海外販売は、単なる販路拡大にとどまらず、自社ブランドを“グローバルに育てていく”大きな成長機会です。FBAやグローバルリンクといった仕組みにより、国内と近い感覚で越境ECにチャレンジできる点は中小EC事業者にとって大きな追い風となるでしょう。
とはいえ、ただ出品しただけでは成果は出ません。言語・文化・税制・物流・広告・レビューといった複数の要素が複雑に絡み合う中で、「売れる仕組み」を戦略的に設計・運用することが、海外販売の成否を大きく分けます。
重要なのは、“広く始める”よりも“深く試す”こと。いきなり多国展開に手を出すのではなく、まずは「1商品×1カ国」で市場テストを行い、現地ユーザーの反応や販売実績を見ながら徐々にスケールしていくアプローチが現実的かつ効果的です。小さく始めて、手応えのある市場に集中投資することで、着実なブランド構築と利益の最大化が期待できます。
また、各国特有の課題に対しては、自社で全てを抱え込まず、信頼できる支援会社の力を借りることも成功のカギになります。広告運用やレビュー施策、物流設計など、現地事情に詳しいパートナーを活用することで、トラブルを未然に防ぎ、事業成長のスピードを加速できます。
国内市場が成熟し、競争が激化する今だからこそ、越境ECは次の収益基盤として注目すべき領域です。Amazonという世界規模のプラットフォームを活用すれば、限られたリソースでも世界中の顧客にアプローチできる時代がすでに到来しています。
まずは小さな一歩からでも構いません。これまで国内中心だった販売戦略に“海外”という新たな選択肢を加えることで、自社の未来を大きく切り拓く可能性が広がっていくでしょう。