M&Aをお考えの方で、以下のような疑問はありませんか?
「M&Aを進める上でDDを具体的に知りたい」
「DDにはどのような種類があり、何を調べるの?」
「DDはいつ、どうやって行うの?」
デューデリジェンス(DD)はM&A(合併・買収)の成功に不可欠なプロセスですが、目的や内容を正確に理解している方は多くないかもしれません。
本記事では、DDの目的や9つの種類、実施手順3STEPなどを詳しく解説します。M&Aのリスクを低減し、成功につなげたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
M&Aの際、買い手企業が売り手企業に対して詳細に調査・分析するのがDD(デューデリジェンス)と呼ばれ、買収監査を意味します。M&A実行前に、買収対象企業の価値やリスクを正確に把握する目的で行われます。
調査範囲は財務・法務・ビジネスなど多岐にわたるため、通常は弁護士や公認会計士など外部の専門家チームを組成して進めるのが一般的です。
DDでは、M&Aにともなうリスクを事前に特定するのが主な目的です。売り手企業から提示される情報だけでは見えない潜在的な問題点(未払い税金、訴訟リスク、簿外債務など)を見つけます。
上記のリスクを把握できれば、買い手は買収価格の妥当性や買収実行の可否を判断する重要な材料を得られます。
そのため、DDはM&A後の失敗リスクを最小限にするために不可欠です。
DDは通常、M&A基本合意書(LOI)締結後に行われ、以下のタイミングで行われます。
DD期間は企業をどこまで調査するかによりますが、おおむね1ヵ月〜2ヵ月が目安で、状況により期間は変動します。
なお、M&Aの基礎知識に関してより詳しくは、以下の記事も参考にしてください。
M&A基礎
DDは、調査対象に応じてさまざまな種類があり、中でも代表的な9つを紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
対象企業の財務状況の健全性に関する調査を財務デューデリジェンスと呼びます。
この際、以下3つの財務諸表を精査し、収益性や資産、負債、資金繰りの実態を把握します。
特に粉飾決算や簿外債務、過剰在庫、不良債権などのリスクは企業価値評価や買収価格の妥当性判断に欠かせません。
なお、公認会計士や税理士が財務デューデリジェンスを実施します。
法務デューデリジェンスでは、以下の項目を確認し、調査対象の企業が抱える法的な観点のリスクを調査します。
特に、事業継続に必要な許認可の引継ぎ可否や潜在的な訴訟リスクを重点的に調査します。リスクが顕在化すると損害賠償責任を負う可能性もあるため、慎重な調査が必要です。
なお、法務デューデリジェンスは弁護士が担当します。
ビジネスデューデリジェンス(事業デューデリジェンス)は、対象企業の事業そのものの調査・分析を意味します。
評価するのは以下の項目です。
ビジネスデューデリジェンスでは、外部環境(市場動向、競合)と内部環境(強み、弱み)から事業の将来性や収益性を評価し、M&A後のシナジー効果も検討します。また、最終的な買収価格決定に重要な情報となり、主に経営コンサルタントが担当します。
税務デューデリジェンスでは、問題なく納税しているか、税制度を遵守しているか、未解決の税務問題があるかなどの税務リスクを調査します。
万が一深刻な税務リスクを見つけた場合は、リスクを考慮した上でM&Aを進める、あるいは税務リスクを低減するスキームの検討が必要です。
なお、税務デューデリジェンスは、税理士が主に担当します。
ITデューデリジェンスは、対象企業の情報システム状況を把握する調査のことで、基幹システムやインフラ、セキュリティ、ライセンス管理などを確認します。
M&A後に両企業の情報システム統合を行う際のリスク把握やセキュリティリスクの把握のために重要です。
また、先端技術企業のM&A案件の増加が予想されるため、IT デューデリジェンスの必要性は今後さらに高まると考えられます。
環境デューデリジェンスは、対象企業の土地や不動産、または工場や機械設備などに対する、環境上のリスク調査のことです。工場などの土壌・地下水汚染や騒音、廃棄物処理、環境関連許認可を確認します。
SDGsへの取り組みをはじめ、環境に配慮した取り組みは国内外で注目されているため、環境デューデリジェンスは意識するべきです。
対象企業が有する不動産のリスクを経済的、法的、物理的観点から調査することを「不動産デューデリジェンス」と呼びます。
主に以下の項目を調査します。
不動産の価値や状態は企業価値評価やM&A後の計画に影響するため、不動産鑑定士などの専門家が評価を担当するのが一般的です。
人事デューデリジェンスでは、調査予定の企業のスタッフに関するリスクや組織文化・人事制度を評価します。
主な調査項目は、以下の通りです。
なお、両企業の人事制度の違いによってM&A後の問題が発生しないよう、調査結果を元にしたすり合わせが必要です。
ガバナンスデューデリジェンスは、対象企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)体制の実態を評価します。
主な調査項目は以下の通りです。
M&A後に自社基準との整合性を図れるか、不祥事リスクがないかを評価します。また、子会社管理規程や決裁権限規程、運用分析も欠かせません。
DDを実際に進める際の一般的な手順を解説します。
上記のステップでM&Aの最終判断に必要な情報を収集・分析するため、ぜひ参考にしてみてください。
まず、買い手は各調査の専門家や担当者を合わせたチームを立ち上げます。
チームを立ち上げたら、以下の準備を進めます。
なお、調査する企業の情報を収集するため、調査準備には秘密保持契約を結ぶようにしましょう。
準備が整えば調査を開始し、財務諸表、契約書など、売り手から提出された資料を精査・分析します。不明点や要確認事項は、売り手経営陣などへのインタビューや現地視察で確認します。
なお、従業員にM&Aの事実が漏れないようにするには、休日や夜間に調査を行うなど、情報管理に配慮したスケジュール調整が必要です。
調査を実施した専門家から提出された結果を元に、M&Aに関する議論を行い、買い手は発見されたリスクの影響度を評価します。
その上で、M&Aを続行するか、条件交渉(価格引き下げなど)を行うか、中止するかを最終決定します。
また、リスクの状態次第では買い手がM&Aを中止する可能性もあるため、売り手側は遡及的な課題解決が必要です。
DDに必要な費用の目安として、中小企業で数十万円〜数百万円、大企業や複雑な案件では数百万円〜数千万円規模になるケースもあります。費用は対象企業の規模、調査範囲、期間、依頼する専門家の数・種類などで大きく変動します。
例として、法務デューデリジェンスの費用相場は1日あたり15万円〜40万円でトータル100万円以上、税務デューデリジェンスの費用相場は、1日あたり2万円〜5万円、トータル60万円〜120万円が目安となるため、参考にしてみてください。
効果的にDDを進めてリスクを適切に評価するには、以下2つの注意点があります。
上記に留意して、DDの質を高めていきましょう。
DDでは買い手が売り手の機密情報にアクセスするため、調査前に必ず秘密保持契約を結びましょう。DD目的以外での取得情報の使用は避け、アクセス担当者を限定するなど漏洩防止策を検討します。
情報漏洩した場合は、M&A破談や損害賠償問題につながる可能性があるため、専門家にDDの際に開示する情報の範囲に関してアドバイスをもらうなど備えが必要です。
企業や事業の規模に見合ったDDの実施が必要で、必要に応じて専門家に調査を依頼するべきです。調査範囲が限定的、あるいは十分な知識がない人物が調査を行うと、不十分な調査によるリスクを負う可能性があります。
また、コスト軽減や時間短縮を目的に、自社だけで調査を行うとリスクを発見できない場合があるため、専門家への依頼も検討しましょう。
DDは、M&Aの買収監査であり、買い手が売り手のリスクを評価する重要な調査プロセスです。
法務や税務、財務、ITなど調査項目は複数あるため、必要な調査に絞りつつ、外部の専門家に調査を依頼して的確にリスクの調査を行うのが重要です。
ただ、DDの際は、売り手の機密情報を調査できるように、調査前の秘密保持契約は忘れず行いましょう。
本記事を参考に、ぜひDDを取り入れてみてください。